八いつ賞2009
2009年度卒業設計提出作品
碧の海に住まうこと 都市とわたしのスキマ
杉野友香
伊藤義浩 広瀬友香
松尾公介
2008年度審査経過
審査員 木下正裕(S48年卒)、藤吉洋司(S49年卒)、安井聡太郎(S59年卒)
審査員評
 平成21年度の八いつ賞の審査が2月27日行われました。
今年度は13の作品が展示されそれぞれの出展者の説明と質疑がなされました。立派な模型やCGなどは近年の傾向ですが中には手書きのドローイングが印象的な作品もあり新鮮に思いました。
 今年度の八いつ賞には杉野友香さんの作品『碧の海に住まうこと 都市とわたしのスキマ』を3人の審査員で選びました。市街地と田園の境界に長い屈折する共同住宅を作り都市から田園風景を楽しみ農業との接点を持たせる計画です。境界にあなだらけの城壁をつくり都市の輪郭を視覚化するアイデアが新鮮でした。建築も気持ちのよさそうな空間がうまく表現されていました。
 賞の候補には他にも意欲的な作品がありましたがコンセプトの弱さが賞に結びつきませんでした。また今回は女性の作品が目に付きました。身近な暮らしの中からテーマを選び作品に仕立てていくやり方に好感が持てました。
 一方で社会との関わりの中で建築のあり方を考え提案する作品が少なく内容的にも浅いものが多くなっているような気がする。表現の軽さが気になるのは私だけかもしれませんが、、。(藤吉洋司)
杉野友香案
 都市と郊外の田園地帯の境界線に立つリニアーな集合住宅の提案。建築にスパイラルにまとわり付いて展開する外部空間が興味深い。この外部空間を集合住宅のコミュニティスペースとして積極的に表現すれば、さらに面白くなったかもしれない。

寺田智之案
 既存博物館を改修増築し、市民と博物館との新しい関係を提示する案。既存博物館の周辺に球体の断片状の屋根を配置し、博物館への誘導装置とし、市民に対して開かれた博物館を提示している。博物館の収蔵と展示に対する考察が不十分で、博物館の新しい形の提案が弱いように思える。建物の内と外との区切り等、建物内外を人が動いていく時に直面するであろう現実的な課題に対して、もう少し配慮がほしい。

加藤広祐案
 久屋大通り公園の都市高速道路下の活用方法の提案。名古屋市における久屋公園の位置付けに関する考察がなされていない。高架下しか視野に無く、提案にふくらみが無い。

權田国大案
 金山駅の再開発計画の提案。地表面全体を斜面にしてオープン化した形態は面白いが、そこの使い方が形態の面白さに繋がっていない感がある。

伊藤義浩案
 郊外の老朽化した団地のセンターの提案。提案者は団地の建物が形作るシルエット、痕跡に興味があるようである。団地をどうしたいのかという点に関する考察がない。

牛丸匠案
 丘陵地の谷部分に計画した学校の提案。学校に対する考察も無く、周辺環境に対する考察も無い。屋根と床の形態操作のみに関心があるようである。

松尾公介案
 高野山のビジターセンターの提案。曼荼羅に対する解釈の掘り下げが不十分なため、建築プランへの反映が弱い。

平岡なつき案
 渋谷の狭小な河川を挟んで建つ個室集合住宅の提案。テーマを都会における個室住戸と都市環境に絞って掘り下げた提案にすれば興味深いものになったかもしれない。河川にこだわったために、かえって趣旨がわかりにくくなった感がある。発想のきっかけはきっかけとして、自分が何を表現したいのか自己に問いかけなおす姿勢がほしい。なお平面図に個室部分が表現されておらず、提案がわかりにくくなっている。

広瀬友香案
 美術館と高齢者住宅との複合施設の提案。組み合わせはユニークであるが、郊外で土地にゆとりがある場所での提案は説得力に欠ける。建築密度の高い都会での提案であれば、また違った意味合いがあって、興味深いものになったかもしれない。

小林哲哉案
 運河沿いに展開する美術館の提案。形態は群建築風で面白い。市民と美術館とのあり方の掘り下げが不十分のような気がする。例えば展示室とホールといった、利用者が館内を移動していく時の具体的な行為と施設のしつらえ方に関する考察が弱い感がする。

古川智之案
 床、壁といった建築要素を細分化装置化することにより、使用者が自由にスペースの構成が出来るオフィスの提案。なぜオフィスがこういう形態をとる必要があるのかは不明。

松田真也案
 新しい構造形式の生成とバーチャルな手法に関する提案。構造形式の生成は興味深い。具体的な建築に美術館を選択したのが、提案をわかりにくくしているように感じられる。バーチャルな手法の提案がユニークな構造形式の提案を一層弱めているように思われる。

山内悠生案
 港湾の桟橋にU字型に屋根を架けて人口の丘を形成する案。基本的なアイデアは横浜の大桟橋と同じで、それに何かを付加したようには見えず新奇性に乏しい。基本的なアイデアを膨らませて、具体的な建築デザインを豊かにしていく努力工夫がほしい。


(木下正裕)

歴代受賞者(敬称略)
2008年度 加藤祐樹 PARK TERMINAL
2007年度 山口智三  Learning from Catastrophe -災害資料館計画-
2006年度 森田 慧 Stoa Flora
2005年度 福田純一 HIROSHIMAの記憶
2004年度 浅見泰則 水の駅
2003年度 谷田侑美子
2002年度 安藤由里子 Flower Factory MUseum
2001年度 平野章博 飛鳥の架橋
2000年度 置塩淳夫 TRANSTATION
1999年度 並松史郎 Cultivation-space 定年帰農者の農村
1998年度 若見招子 CHILDREN PATH PROJECT
1997年度 該当者なし
1996年度 原 優子 TERMINAL STUDENTS CENTER
1995年度 大西高広 Yacht Workshop
1994年度 大崎太郎 MEDIA NORD in NAGOYA