八いつ賞2011
2011年度卒業設計提出作品
古賀春那 「esplanade market ―福岡・姪浜漁港再整備計画」 岩佐育恵 「わたしの街」 筧政憲 「amplify classroom」
澤嵜裕樹 「東日本大震災―岩手県宮古市田老地区復興計画―」 藤木晴久 「Green Districts -Kawana-Yamazakiriver-」 前田千晶 「Terrarchitecture-カンボジア・アンコール遺跡群
保存修復センター」
松永 彩 「流線縷々-犀川加賀友禅工房・美術館」 光山 茜 「sit side by side」 南澤智規 「TOWER PROJECT」

萱野貴大 「Sceinic Architecture」

飯塚修平 「Aglinia」
   
2011年度審査経過
審査員 木下正裕(S48年卒)、佐竹一朗(S58年卒)、堀田隆文(S59年卒)
審査員評
2011年度の八いつ賞の審査が2月27日に行われました。
今年度は11の作品が展示されそれぞれの出展者の説明と質疑がなされました。
  飯塚修平案
新規農業従事者をどのように受け入れるか、市民と農家の交流の仕掛け作りをどうするかに関する提案である。テーマは高齢化が進む農業にとっては切実であり、
新規農業従事者のシェアハウスというアイデアも面白いと思う。既存の農家とシェアハウスの関係をもう少しわかりやすく表現していたらと惜しまれる。

岩佐育恵案
小学校と福祉施設の複合化の提案である。小学生と福祉施設利用者の関係の仕方が提案されていない。

萱野貴大案
建築の開口部でどのように風景を切り取り見せるかという提案である。テーマは個別的技術的なものなので、徹底的に具体的な案の提示がないと評価できない。

古賀春那案
福岡県の漁業市場の計画の提案である。市民が市場を身近に感じられるような施設作りの提案で、テーマに今日性があるかどうかは不明だが、市場を動態展示の
場と捉え、市民が市場の活動を邪魔することなく見学したり海の景観を楽しんだりできるように良く構成されている。提案者は駐車場のランプウェイを海辺のドライブ
ウエイのようにしたかったようであるが、それであるならば両側駐車の形式から変えたほうがより趣旨が伝わったのではないだろうか。

言信裕貴案
東日本大震災地の復興計画の提案である。どこに住宅を再建しどんな生活をするのかが提案の中心であるが、目指すのは0からの再建ではなく、今まであった
コミュニティの再構築であると思うが、その点の調査検討がまったくなされていない。こういうのを上からの再建というのではないだろうか。

藤木晴久案
緑による都市の再構成の提案である。緑によって都市に何を取り戻すのか。ビオトープなのか獣道の再生なのか、その点の詰めが甘いため単なる緑化に終わって
いる。住環境の緑化は今やどこでも言われているので、それだけでは新鮮な提案にはならないように思う。

前田千晶案
アンコールワット遺跡の研究観光施設の提案。現にこういう施設は無いようなので、現実味がある提案である。案自体も堅実であり、このまま実現してもおかしくない
ようなものであるが、アンコールワットの空間構成なり精神なりの反映が施設構成にほしかったような気がする。又、学生の提案であるので、何らかの意外性なり飛躍
なりがほしい。例えば、洪水を利用して、乾季の時とはまったく違う建築の表情を見せるような演出の提案がされたなら、面白かったかもしれない。

松永 彩案
友禅染の工房を兼ねた美術館の提案である。友禅の流れるようなイメージを建築の形態に取り入れている。空間構成を、スロープ等を活用して平面的にも立体的にも
流れるような構成としたなら、もう少し説得力のあるものになったかもしれない。立体的な空間構成が良く検討されてないようだが、折角模型を作るのなら、こういう点を
検討してほしかった。

光山 茜案
名古屋市の都市計画の過程で発生している問題に関する提案である。こんな問題があることすら、知らなかったので新鮮であった。提案は、都市計画上で発生した問題
をいかに実質的に目的を達成しつつ軟着陸させるかに関するものであるが、踏み込みが弱いように感じられた。学生だから、実現性に縛られずもっと大胆なアイデアが
提示されても良かったのではないかと思う。もっとも、先生達からは突っ込みどころ満載の提案になったかもしれないが。

南澤智樹案
スプロール化する都市の中心部分に残された木造密集市街地の、再活性案である。提案者は、複数の異なるデザインの塔を持った福利厚生施設を地域に散在させる
ことによる旧市街地の再活性化を提案している。低層旧市街地に塔という新たな景観を持ち込むことによる視覚的な活性化は面白いかもしれない。塔の位置づけが弱
いため、説得力不足であったようだ。
 
筧 政憲案
階層ごとにスパンの異なる壁列を交互に積層させた建築の提案。提案者はあるルールを持った構成が生み出す空間に興味があるようだが、それが生み出す新しい空間
なり用途なり体験なりに対する提案が貧弱なため、個人的な好みの領域を抜け出していない。

(木下正裕)
 

古賀さんの作品は、福岡の漁港を活性化するために、漁港と市場とパーキングの複合施設として計画され、働く人々と訪れる市民が日常的に交流することを目指した計画
案です。PC構造を用いた多層的なデッキが織りなす空間は大変シンプルな構成ながら、漁港や市場は吹き抜けを通して明るく爽やかで、港に突き出たデッキのカフェには
働く人々の活気が伝わり、屋上に停めた車からは博多湾を望み、空を楽しむことができます。実現すればさぞや楽しかろうと思わせる、健康的でストレートな計画が何より
魅力的な作品です。徒にコンセプチュアルな提案や形態操作に留まることなく、漁港の再整備というリアリティのあるプログラムを設定し、具体的な建築空間として工夫を重
ね、郷土の活性化を実現しようとする提案であり、図面や模型、そしてパラパラ漫画によるシークエンス表現などにも、自分自身が楽しめる場所を創りたい、思い描いた夢を
伝えたいという気持ちの強さが際立っていました。四年間名大で学び培った社会への視点、課題に対して正面から設計に取り組む真摯な姿勢を大いに評価し、社会に活か
す志を持ち続けてもらいたいと考え、八いつ賞にふさわしい作品と判断いたしました。(佐竹一朗) 

歴代受賞者(敬称略)
2010年度 (奨励賞) 国本築永 TRASPORTABLE EMERGENCY ROOM 
  2009年度 杉野友香  碧の海に住まうこと 都市とわたしのスキマ 
2008年度 加藤祐樹 PARK TERMINAL
2007年度 山口智三  Learning from Catastrophe -災害資料館計画-
2006年度 森田 慧 Stoa Flora
2005年度 福田純一 HIROSHIMAの記憶
2004年度 浅見泰則 水の駅
2003年度 谷田侑美子
2002年度 安藤由里子 Flower Factory MUseum
2001年度 平野章博 飛鳥の架橋
2000年度 置塩淳夫 TRANSTATION
1999年度 並松史郎 Cultivation-space 定年帰農者の農村
1998年度 若見招子 CHILDREN PATH PROJECT
1997年度 該当者なし
1996年度 原 優子 TERMINAL STUDENTS CENTER
1995年度 大西高広 Yacht Workshop
1994年度 大崎太郎 MEDIA NORD in NAGOYA